今年は戌(いぬ)年。犬にとっては12年に1度、脚光を浴びる「ハレの年」だ。そんな中、「犬を飼ってはいけない島がある」という驚愕(きょうがく)の情報が寄せられた。本当に「犬の居ぬ島」なのか-。特命取材班は佐賀県唐津市鎮西町の加唐(かから)島を訪れた。
強い冬風が吹き付ける昨年12月中旬。同市呼子町から加唐島に向かう船に乗った。さっそく乗り合わせた女性(64)に聞くと「島で生まれ育ったが、犬は見たことなか」。副船長の緒方泰さん(39)も「120パーセントいないよ」と断言した。やはり、伝説は本当なのか。
島の面積は約2・8平方キロ、人口は131人(2015年国勢調査)。農業と漁業が盛んな島である。1軒ずつ民家を訪ねると、住民たちは口々に「島じゃ絶対に飼えない」「飼うと罰(ばち)が当たるよ」と話した。
坂本末子さん(88)は「昔、“犬狩り”があった」と証言する。50年以上前、犬を連れてきた人がいた。島民総出で島中に肉をまいておびき寄せ、捕まえたという。近年、島外からの帰省者や旅行客が一時的に犬を連れてくることには寛容になったというが、犬への恐れぶりは相当なものだ。
犬好きの住民もいる。昨年11月末には島のお年寄りが集い、犬の干支(えと)人形を作った。島の最高齢とされる緒方シゲノさん(90)は「生きた犬はだめだけど、人形なら大丈夫」。
本当に飼ったことのある島民はいないのか。諦めかけたところで保育士の宗順子さん(59)と出会った。「17年前、3カ月だけ犬を飼いました。たぶん島でうちだけでしょう」
当時3歳の娘からせがまれ、外に出さずに飼うことにした。手のひらに乗るほどの子犬。「散歩は暗くなってから。住民に見られないよう、家の前の坂を上り下りさせた」
親族からは「飼ってはだめ」「島全体がおかしくなる」と言われ続けた。成長するにつれて鳴き声が大きくなり、泣く泣く3カ月で島外の親族に譲った。
「『行きたくない』と悲しそうに鳴いていた」。船着き場での犬の姿を、今も鮮明に覚えているという。